2026.07.27

嚥下食(嚥下調整食)とは 学会の分類基準から安全に仕上げる調理の工夫

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「嚥下食(嚥下調整食)とは?」をテーマにしたサムネイル画像。 タイトル下には、「学会分類2021完全対応・プロ直伝」というサブタイトルのテキストを配置。 背景画像では、一食分の嚥下食。下部には「5段階の分類と食事形態の違い」「注意すべき食材と調理ポイント」のテキストがレイアウトされている。

【嚥下食(嚥下調整食)とは】
学会の分類基準から安全に仕上げる調理の工夫

嚥下食(嚥下調整食)とは、摂食嚥下機能が低下した方誤嚥なく安全に栄養を摂取できるよう、硬さ・粘度・まとまりやすさを適切に調整した食事の総称です。

 

病院や高齢者施設の食事において、この安全な嚥下食の提供は、食事管理の極めて重要なテーマです。

 

しかし、現場では
「どの程度のやわらかさにすべきか分からない」
「ミキサー食にしたら離水してむせてしまう」
といった物性調整の悩みが多く聞かれます。

 

そこで本記事では、「学会分類2021」が定める5段階の分類基準をはじめ、注意すべき食材調理の工夫を分かりやすく解説します。
全国1,800カ所以上の病院・高齢者施設で食事提供を行うLEOCの知見をもとに、安全でおいしい食事を提供するためのヒントをお届けします。

 

嚥下食(嚥下調整食)の定義と目的

安全でおいしい食事を提供する上で、まずは嚥下食の基本を押さえておくことが重要です。

ここでは、その定義や目的、一般的な介護食との違いについて詳しく見ていきましょう。

 

嚥下食の定義

冒頭で触れた通り、嚥下食は摂食嚥下機能が低下した方のための食事です。
医療や介護の現場では、正式名称である「嚥下調整食」という言葉が広く使われています。

 

具体的には、食べ物を咀嚼し、喉から食道へと送り込む一連の動作が難しくなった方を対象としています。
硬さだけではなく、凝集性(まとまりやすさ)付着性(口の中での残りにくさ)が、科学的・医学的根拠に基づいてコントロールされています。

 

 

嚥下食の目的

嚥下食を提供する主な目的は、誤嚥を防止し、誤嚥性肺炎や窒息のリスクを低減することです。

 

誤嚥は、激しいむせ込みを引き起こすだけでなく、食物と一緒に病原体が肺に入ることで「誤嚥性肺炎」を発症する直接的な原因となります。

 

厚生労働省によると、この誤嚥性肺炎は日本人の死因の第6位を占めており、特に高齢者において死亡数・死亡率ともに増加傾向にあります。
そのため、病院や高齢者施設における食事管理において、誤嚥を防ぐアプローチの重要性がますます高まっています。

 

嚥下食はこれらのリスクを最小限に抑え低栄養や脱水を防ぎながら、安全に「食べる楽しみ」を支えるために不可欠な存在です。

 

 

介護食との違い

「介護食」と「嚥下食」は混同されがちですが、その役割は異なります。

 

まず介護食は「噛む力の低下や消化機能に応じた食事全般」を指します。
一方嚥下食は「飲み込む力(嚥下機能)が低下した方誤嚥を防ぐために、先述した硬さや粘度などの物性を厳密に調整した食事」を指します。

 

施設運営において、利用者の安全を守るためには、この専門的な「嚥下食」への正しい理解と対応が不可欠となります。

 

「嚥下調整食学会分類2021」に基づく分類基準

嚥下食の硬さや粘度は、食べる方の状態に合わせて選ぶ必要があります。

医療・介護現場における共通の物性基準としては、日本摂食嚥下リハビリテーション学会が策定した「嚥下調整食学会分類2021」が広く用いられています。

 

この分類では、食事の物性をコード0からコード4までの5段階で示しており、それぞれのレベルで食べ物の硬さ・凝集性・付着性といった食事形態が具体的に定義されています。

このコードは、医師や管理栄養士、言語聴覚士などの専門家が、個人の嚥下機能に合った食事を選択するための重要な指標となります。

 

 

5つのコードの特徴一覧

 

コード 形態 物性 特徴 主食の例
0j ゼリー状 均質で離水が少ない
スライス状にすくうことが可能
・タンパク質含有量が少ない
・そのまま飲み込み可能
なし(評価・訓練用)
0t とろみ水 均質、中間~濃いとろみ
付着性が低く、凝集性が高い
なし(評価・訓練用)
1j ゼリー・プリン・ムース状 均質でなめらか
離水が少ない
・多少の口腔内操作を要するものも含む おもゆゼリー
ミキサー粥のゼリー
2-1 ピューレ・ペースト・ミキサー食 均質でなめらか
べたつかず、まとまりやすい
・スプーンですくって食べることが可能
・送り込む際に口蓋に舌を押し付ける
粒のない、ペースト状のおもゆ・粥
2-2 ピューレ・ペースト・ミキサー食 不均質なものも含む
べたつかず、まとまりやすい
粒が残るペースト状、ミキサー粥
3 やわらか食、ソフト食 形はあるが、押しつぶしが容易
多量の離水がない
・舌と口蓋で簡単に押しつぶし可能
・口腔内の操作で食塊にまとまる
全粥、離水に配慮した五分粥
4 軟菜食、移行食 ばらけにくく、貼りつきにくい
箸やスプーンで切れるやわらかさ
・歯や歯茎で押しつぶし可能 全粥、軟飯

※本表は「嚥下調整食学会分類2021(食事)早見表」(日本摂食嚥下リハビリテーション学会)をもとに作成。

実際の運用にあたっては、必ず学会分類2021の解説文本文をご確認ください。

 

 

とろみの3段階分類

嚥下食では、固形物の食事形態だけでなく、水分にも注意が必要です。
水やお茶などの流動性の高い液体は、咽頭を通過する速度が速くむせ込みやすいためです。

 

学会分類では、飲み込む力に合わせて以下の3段階の粘度に調整します。
薄いとろみ:スプーンを傾けるとサラサラと流れ落ちる(フレンチドレッシング状)。
中間のとろみ:スプーンを傾けるとトロリと流れる(とんかつソース状)。
濃いとろみ:スプーンを傾けても形状が一定時間保たれる(ケチャップ状)。

 

個人の状態に合ったレベルのとろみを選ぶことが、安全な水分補給につながります。

 

 

嚥下食の主な種類と特徴

給食や介護で提供される嚥下食は、主に「ミキサー食」「ムース食・ゼリー食」「ソフト食」の3つに分類されることが一般的です。
それぞれに物性や特徴が異なり、食べる方の咀嚼・嚥下能力に合わせて適切な食事形態を選びます。

 

①ミキサー食

ミキサー食は、調理した通常の料理にだし汁などの水分を加え、ミキサーで流動状にした食事形態です。
噛む力が著しく低下し、食べ物を噛み砕くことが困難な方に適しています。

 

咀嚼をほとんど必要とせずに飲み込めることが特徴ですが、サラサラにしすぎると誤嚥のリスクが高まるため、適度なとろみを付けるなどの調整が必要です。

 

給食現場においてはいくつかの課題もあります。
水分を加えるため栄養密度の低下が起きやすい点や、時間経過による離水への注意が必要になる点です。

 

そのため厨房では、とろみ調整食品を用いた的確な物性コントロールや、見た目で食欲を低下させない盛り付けの工夫が求められます。

 

 

②ムース食・ゼリー食

ムース食やゼリー食は、ミキサーにかけた食材をゼラチンや固形化補助食品(ゲル化剤など)を用いて再保形した食事形態です。
噛む力が低下しており、口の中で食べ物をまとめる力が必要な方に適しています。

 

適度な固形感と弾力があり、口の中でまとまりやすく誤嚥リスクが低いことが特徴です。
また食材ごとに型を使うことで元の料理の形に近づけることもでき、食欲増進につながるという利点もあります。

 

一方で、給食現場においては正確な成型技術が課題となります。
固形化補助食品のコスト管理や、温かい料理と冷たい料理でのゲル化剤の使い分けなど、厨房スタッフには専門的なノウハウが求められます。

 

 

③ソフト食

ソフト食は、食材の形を保ちながら、舌や歯ぐきで容易につぶせる硬さに調理した食事形態です。
噛む力が低下しているものの、嚥下機能は比較的保たれている(軽度の低下にとどまる)方に適しています。

 

口の中でまとまりやすく、ミキサー食やムース食と異なり、通常の食事に近い見た目や風味を保てるため、利用者が食事の楽しみを感じやすいのが大きなメリットです。

 

しかし給食現場においては、多大な手間がかかるという課題があります。
形を崩さずにやわらかさとまとまりを実現するには、長時間煮込むなど調理技術が必要となります。

 

 

きざみ食が嚥下障害のある方に適さない理由

食材を細かく刻んだ「きざみ食」は、咀嚼の負担を減らす一方で、嚥下障害のある方には推奨されません
その理由は、細かく刻まれた食材が口の中でまとまりにくく唾液や水分と混ざらずに気管へ入り込みやすいためです。
これにより激しいむせ込みだけでなく、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こすリスクを高めてしまいます。

 

そのため、嚥下障害がある利用者に対しては、きざみ食ではなく、口の中でまとまりやすい嚥下食(ミキサー食・ムース食・ソフト食)を適切に選択して提供する必要があります。

 

 

現場で注意すべき「使用しにくい食材」一覧

嚥下機能が低下している方にとって、特定の食感や物性を持つ食材は、誤嚥や窒息につながる恐れがあります。
そのため、給食現場の献立作成や調理においては、リスクのある食材をあらかじめ排除するか、適切な加工を行うことが極めて重要です。
特に注意すべきポイントは、大きく分けて4つあります。

 

①粘着性が高く口の中にへばりつきやすい食材

例:餅、団子、パン、カステラなど

 

パンやカステラなどは唾液を吸って塊になりやすく、喉に詰まる危険性が高まります。
対策として、パンは形が残らないなめらかな「パン粥」にするか、あるいは喉に張り付きにくい嚥下障害対応の代替製品を使用する必要があります。

 

 

②パサついて口の中でばらけやすい食材

例:ひき肉、焼き魚、ゆで卵の黄身、ブロッコリーの房など

 

口の中でまとまりにくい食材は、誤嚥を招きやすくなります。
調理の際は片栗粉を入れた「あん」や「とろみソース」を全体に絡めるほか、つなぎを多めに入れてしっとり仕上げるなどの工夫が効果的です。

 

 

③混在性の高い食材

例:味噌汁、みかん、お茶漬けなど

 

水分と固形物が一度に口に入る混在性の高い食材は、液体だけが先に喉へ流れ込んでしまうため、誤嚥のリスクが高くなります。
汁気には適度なとろみをつけ、具材は利用者の嚥下コードに合わせたやわらかさに調理することが必要です。

 

 

④皮や繊維が口の中に残りやすい食材

例:トマトの皮、イカ、タコ、ゴボウ、レンコンなど

 

野菜の皮や根菜類は、噛み切りにくくそのまま喉に送り込まれる危険があります。
調理の際は皮や種を丁寧に取り除いて隠し包丁を細かく入れるか、リスクが高い場合は使用を避けて他の安全な食材へ代替する判断が求められます。

 

 

嚥下食の安全な選び方と調理ポイント

嚥下食を安全に、そしておいしく提供するためには、食べる方の能力に応じた適切な「選択」からはじまり、物性をキープする「調理技術」、そして食中毒を防ぐ「衛生管理」まで、一連のプロセスを科学的な視点で管理する必要があります。

ここでは、現場で実践すべき具体的なポイントを解説します。

 

【選び方】多職種による評価と嚥下コードの一致

嚥下食を選ぶ際、最も重要なのは「現場の判断だけで食事形態を決定しない」ことです。

 

利用者の誤嚥リスクを避けるため、医師や歯科医師、言語聴覚士(ST)、管理栄養士などの専門職が、嚥下造影検査(VF)水飲みテストなどの評価を行い、適切な「学会分類コード」を決定します。

 

厨房では、この決定されたコードに基づき、個々の咀嚼・嚥下能力に適した食事形態を正しく用意し、提供することが重要となります。

 

 

【調理の工夫】科学的アプローチによる物性維持

安全な嚥下食を安定して提供するためには、調理師の経験だけに頼るのではなく、科学的な視点で食材や水分をコントロールすることが重要です。
具体的なアプローチとして、以下の3つのポイントが挙げられます。

 

・酵素の活用
肉や野菜の繊維を酵素で分解し、食材本来の形や風味を保ったまま「舌や歯ぐきでつぶせるやわらかさ」に調整します。

 

・温度に合わせたゲル化剤の選定
温冷配膳車で保管しても溶け出さないよう、提供時の温度帯に耐えられる適切な固形化補助食品を選びます。

 

・離水の防止
時間が経つと水分が分離する「離水」は誤嚥の直接的な原因になります。

だし汁だけで伸ばさず、とろみ剤やゲル化剤を適切に使用することが不可欠です。

 

 

【衛生管理】二次汚染の防止

嚥下食の調理は、一度加熱した料理をミキサーにかけるなど「二次加工」の工程が多く発生します。
この「加熱後の工程の多さ」が食中毒リスク(二次汚染)を高める最大の要因となります。

 

現場では、特に以下の2点に留意する必要があります。

 

・器具の確実な洗浄と消毒
ミキサーの刃やパッキン、成形用の型は細菌が繁殖しやすいため、使用前後の丁寧な洗浄・殺菌が欠かせません。

 

・厳格な温度・時間管理
二次加工を行う際は、調理後の温度変化や放置時間に注意し、菌の繁殖を徹底的に防ぐための適切なオペレーション構築が必要です。

 

なお嚥下食の現場に限らず、病院・施設給食全体で衛生管理基準については、「病院給食・施設給食の衛生管理とは?」をあわせてご参照ください。

 

 

嚥下食に関するよくある質問

嚥下調整食の分類や現場での運用について、よくある疑問をまとめました。
日々の安全な食事提供と、スムーズな厨房運営にお役立てください。

 

嚥下食ととろみ食の違いは何ですか?

「学会分類2021」では、これらを総称して「嚥下調整食」と呼び、その中に「食事」と「とろみ(水分)」の双方の基準が含まれています。

一般的に現場では、固形物の硬さやまとまりやすさを調整したものを「嚥下食(食事)」水やお茶などの液体に粘度をつけたものを「とろみ食」と呼び分けて対応しています。

 

 

きざみ食は嚥下食として提供できますか?

推奨されません。
細かく刻んだ食材は口の中でバラバラになりやすく、唾液と混ざらずそのまま気管に入り込む危険性があります。

安全な食事提供のためには、適度な粘度とまとまりのある「ミキサー食」「ムース食」「ソフト食」などを適切に選択することが重要です。

 

 

嚥下食の形態は誰が決めますか?

医師の指示(食事処方)のもと、多職種が連携して決定します。

具体的には、医師や歯科医師をはじめ、言語聴覚士(ST)や管理栄養士といった専門チームが、嚥下造影検査(VF)や水飲みテストなどの詳細な評価を実施します。

その結果をもとに、一人ひとりの嚥下機能に適した「学会分類コード」を選定します。

 

 

まとめ

嚥下食(嚥下調整食)の提供は、病院や福祉施設におけるリスクマネジメントの要であり、利用者のQOLを左右する重要なサービスです。
安全な提供のためには、きざみ食のリスクを排除し、学会分類に基づいた正確な物性コントロールと調理工夫が不可欠となります。

 

毎日の調理負荷属人化に悩む場合には、すべてを自前で解決しようとする必要はありません。
完全調理品の導入や、専門の給食委託会社の活用は、安全かつ持続可能な提供体制を構築するための有効な選択肢といえます。

 

委託給食の具体的なメリットや、自施設に合った比較ポイントについては、こちらの記事「介護施設の食事提供を外部委託するには?」で詳しく解説しています。

 

LEOC(レオック)は、全国1,800カ所以上の病院・高齢者施設で食事提供を行っています。
その豊富なノウハウを活かし、安全でおいしい嚥下調整食のご提供や、厨房運営の効率化をサポートしています。
「日々の調理負荷を軽減したい」「安全な食事提供体制を整えたい」など、施設給食に関するお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

 

 

主な出典

・日本摂食嚥下リハビリテーション学会:嚥下調整食学会分類2021
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf

 

・厚生労働省「令和7(2025)年 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai25/dl/gaikyouR7.pdf

 

著者プロフィール

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